密室殺人に挑戦!!名探偵・ 金田一耕助衝撃のデュー作!! 「……農村に入って見給え、都会では殆ど死滅語となっている『家柄』という言葉が、如何に今なお生き生きと生きているか、そしてそれが如何に万事を支配しているか、諸君は知られるだろう。 今度の敗戦以来の社会の混乱から、さすがに農民諸君も地位や身分や財産などには、以前ほど叩頭(こうとう)しなくなった。それらは今、大きな音を立てて崩壊しつつあるからである。 しかし家柄は崩壊しない。よい家柄に対する憧憬、敬慕、自負は今なお農民を支配している。 しかも彼らの言うよい家柄とは、 優生学や遺伝学的見地から見た、よい血統を意味するのではないらしい………」
(本書プロローグ)
岡山県岡―村字山ノ谷―…旧幕自体の参勤交代の折には大名が宿泊したという、地元では由緒ある家系・一柳(いちやなぎ)家で起こった奇怪な殺人事件!! 昭和十二年、一 柳家の当主である賢蔵は、 小作人出身で財をなした久保銀造の姪・克子と婚礼の日を迎えていた。 人々に祝福され、離れで初夜をすごすことになった新婚夫婦……その深夜、人々は恐ろしい悲鳴と琴の音を聞いた!! 離れの座敷の新床の上には、賢蔵夫婦が血塗れになって倒れていたのである!! そして、犯行現場は、内側から施錠され、雪が降り積もった離れの外側には、犯人の足跡が発見されなかったのである……………
《解 説》
戦前の探偵小説界では、 「日本家屋は、石造り中心の欧米の建築物と比較すると、隙間が多く開放的だから、密室殺人には向いていない」 というのが、通説とされてきました。 戦争で 岡山県に 疎開していた 横溝正史は、あえてそれに挑戦し、きわめて純日本的な家屋である、「地方の旧家」を舞台にして、密室殺人事件を、鮮やかに描いたのが本作です。 また、後々の映画化ドラマ化などで、日本を代表する名探偵となった、 金田一耕助のデビュー作となったのも本作であります。 「密室殺人という不可能犯罪」、 「トリック重視の本格探偵小説」、 或いは、 「あの名探偵の若き姿」 に興味を抱く方に、本作を強く推薦いたします。
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