辺野古基地と行政法学1

 

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声明
 
辺野古埋立承認問題における日本政府による
再度の行政不服審査制度の濫用を憂う
                         2018年10月26日
                                                                                                             行政法研究者有志一同
 
沖縄県は、2018831日、仲井眞弘多元知事が行った辺野古沿岸部への米軍新基地建設のための公有水面埋立承認を撤回した(以下「撤回処分」という)。これに対し、10 17日、防衛省沖縄防衛局は、行政不服審査法に基づき、国土交通大臣に対し撤回処分についての審査請求と執行停止申立てを行った。これを受けて、近日中に、国土交通大臣は撤回処分の執行停止決定を行うものと予想されている。
 国(防衛省沖縄防衛局と国土交通大臣)は、201510月にも、同様の審査請求・執行停止申立てと決定を行い、その際、私たちは、これに強く抗議する声明を発表した。そして、福岡高等裁判所那覇支部での審理で裁判長より疑念の指摘もあった、この審査請求と執行停止申立ては、20163月の同裁判所での和解に基づいて取り下げられたところである。
 今回の審査請求と執行停止申立ては、米軍新基地建設を目的とした埋立承認が撤回されたことを不服として、防衛省沖縄防衛局が行ったものである点、きわめて特異な行政上の不服申立てである。なぜなら、行政不服審査法は、「国民の権利利益の救済」を目的としているところ(行審 1  1 項)、「国民」、すなわち一般私人とは異なる立場に立つことになる「固有の資格」において、行政主体あるいは行政機関が行政処分の相手方となる処分については明示的に適用除外としている(行審 7  2 項)にもかかわらず、防衛省沖縄防衛局が審査請求と執行停止申立てを行っているからである。
そもそも公有水面埋立法における国に対する公有水面の埋立承認制度は、一般私人に対する埋立免許制度とは異なり、国の法令遵守を信頼あるいは期待して、国に特別な法的地位を認めるものであり、換言すれば、国の「固有の資格」を前提とする制度である。国が、公有水面埋立法によって与えられた特別な法的地位(「固有の資格」)にありながら、一般私人と同様の立場で審査請求や執行停止申立てを行うことは許されるはずもなく、違法行為に他ならないものである。
 また、撤回処分の適法・違法および当・不当の審査を国という行政主体内部において優先的にかつ早期に完結させようという意図から、日本政府が防衛省沖縄防衛局に同じく国の行政機関である国土交通大臣に対して審査請求と執行停止申立てを行わせたことは、法定受託事務にかかる審査請求について審査庁にとくに期待される第三者性・中立性・公平性を損わしめるものである。
実際、故翁長雄志知事が行った埋立承認取消処分に対して、審査庁としての国土交通大臣は、執行停止決定は迅速に行い埋立工事を再開させたものの、審査請求における適法性審査には慎重な審議を要するとして、前述の和解で取り下げられるまで長期にわたって違法性判断を回避した。それにもかかわらず、地方自治法上の関与者としての国土交通大臣は、ただちに埋立承認取消処分を違法であると断じて、代執行訴訟を提起するといった行動をとったのである。このような矛盾する対応は、審査庁としての国土交通大臣には第三者性・中立性・公平性が期待し得ないことの証左である。
日本政府がとる、このような手法は、国民のための権利救済制度である行政不服審査制度を濫用するものであり、法治国家に悖るものといわざるを得ない。
 法治国家の理念を実現するために日々教育・研究に勤しんでいる私たち行政法研究者にとって、このような事態が生じていることは憂慮の念に堪えないものである。国土交通大臣においては、今回の防衛省沖縄防衛局による執行停止の申立てを直ちに却下するとともに、併せて審査請求も却下することを求める。
 
 
呼びかけ人50 音順)
岡田 正則  早稲田大学教授)               紙野 健二   名古屋大学名誉教授)
木佐 茂男  九州大学名誉教授北海道大学名誉教授                榊原 秀訓   南山大学教授)
白藤 博行  専修大学教授)                徳田 博人   琉球大学教授)
人見      早稲田大学教授)               本多 滝夫   龍谷大学教授)
山下 竜一  (北海道大学教授)          亘理      中央大学教授)