奇譚倶楽部『赤い部屋』

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「赤い部屋」で語られる狂気の殺人遊戯!!

 《 冒  頭 》

異常な興奮を求めて集まった、七人のしかめつらしい男が………

私もその中の一人だった………

わざわざその為にしつらえた「赤い部屋」の、緋色の天鵞絨で張った深い肘掛椅子にもたれこんで、今晩の話し手が、何事か、怪異な物語を話し出すのを、今か今か今か、と待ち構えていた。

七人の真ん中には、これも緋色の天鵞絨で覆われた一つの大きな丸いテーブルの上に、古風な彫刻のある燭台にさされた三本の太い蝋燭が、ユラユラと微かに揺れながら燃えていた。

部屋の四周には、窓や入口のドアさえ残さないで、天井から床まで、真紅の重々しい垂れ絹が豊かな襞(ひだ)を作って懸けられていた。

ロマンチックな蝋燭の光が、その静脈から流れ出したばかりの血のようにも、ドス黒い色をした垂れ絹の表に、我々七人の異様に大きな影法師を投げかけていた。

そして、その影法師は、蝋燭の焔をにつれて、幾つかの巨大な昆虫ででもあるのかのように、垂れ絹の襞の曲線の上を、伸びたり縮んだりしながら、這い歩いていた。

いつもながら、その部屋は、私を、ちょうど途方も無く大きな生き物の心臓の中に坐ってでもいるような気持ちにした。

私には、その心臓が、大きさに相応した鈍さをもって、ドキンドキンと脈打つ音さえ感じられるように思えた。

誰も物を言わなかった。

私は、蝋燭を透かして、向こう側に腰掛けた人達の赤黒く見える影の多い顔を、なんということなしに見つめていた。

それらの顔は、不思議にも、お能の面のように、無表情に微動さえしないかと思われた。

やがて、今晩の話し手と定められた新入会員のT氏は、腰掛けたままで、じっと蝋燭の火を見つめながら、次のように話し始めた―………

 

 

 

  《  解  説  》

日本探偵小説の父・江戸川乱歩が、大正14年4月に、雑誌「新青年」に掲載した、短編探偵小説です。

創元推理文庫

『D坂の殺人事件』に収録されています。

その他、

新潮文庫の「江戸川乱歩傑作選」

光文社文庫の「江戸川乱歩全集・第1巻 屋根裏の散歩者」
などにも収録されています。

―……夜な夜な紳士達が集まり、
怪奇談・猟奇談などを語り合う「赤い部屋」―……

新入会員T氏が語る体験談は、恐るべき殺人遊戯だった!!!

彼は、言う、

「私はある日、ふとした事故から、

証拠を残さず、

法律にも裁かれない、

『殺人方法』を発見しました。

私は今まで、その方法で99人の人間を面白い半分に殺してきました」

その方法は、

1 動機を疑われることがない。

2 物的証拠が残らない。

3 ほんの些細な行為で済む。

4 法律的に犯罪を立証することは困難。

というものです。

具体的にどんな方法なのか………詳しくは本文を読んで頂ければ、と思います。

一読して

「こんな完全犯罪があるのか!!!」

と驚嘆すること間違いなしです。

いわゆる

「プロバリティ=蓋然性の犯罪」

を扱った探偵小説として、本作品を強く推薦いたします。